顕微鏡の基礎

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7. 新しい光学顕微鏡

7. 1 レーザ走査型顕微鏡 Laser scanning microscope : LSM

20世紀最大の発明の一つに挙げられるレーザ光線は、位相がそろって(コヒーレント)、指向性、単色性に優れ、かつ高輝度であるという特徴から、画像・情報・通信・計測・治療・加工など様々な領域で応用されています。レーザ光線を顕微鏡用の光源として使う場合には、そのままではギラギラした干渉ノイズが重なって、劣悪な像しか得られません。このため、レーザ光線を試料面上にスポット集光し、これを走査する方法が考案されました。レーザ走査型顕微鏡の基本的な構成を図7-1に示します。

図7-1 レーザ走査型顕微鏡の構成図

レーザ光はビームエキスパンダによって光束径を拡げ、X方向、Y方向走査用の二つのスキャナ(ガルバノメータミラーなど)を通過後いったん集光し、さらに対物レンズを通って試料上にスポットを結びます。標本を透過したレーザ光は、コンデンサレンズを通り検出器に入射します。無染色の試料であっても、ノマルスキープリズムとの組合せにより微分干渉像が得られます。また標本から発せられた蛍光は、レーザ光の入射経路に沿って元に戻り、ダイクロイックミラーを透過して検出系に入射し、信号処理されたあとモニタ上に画像として表示されます。

図7-2 共焦点の原理

合焦時の試料上のスポットと共役な位置にピンホールを置くことによって、共焦点(confocal)光学系が構成されます(図7-2)。

この共焦点光学系によって得られる像は、通常の光学顕微鏡像と比べ次のような特長を持っています。

  1. 合焦位置以外からの光を排除するため、厚みのある試料を光学的にセクショニングできます。こうして得られた像を画像処理して重ねることにより、鮮明な三次元像を構築することが可能です。
  2. 通常の顕微鏡でフレアの原因となる、試料上のスポット以外からの光がカットされるため、コントラストの極めて高い像が得られます。
  3. ピンホール径の最適化と、検出器以降の処理系により、最終的な分解能を通常の光学顕微鏡の1.3〜1.4倍に高めることができます。

こうした特長は、医学・生物分野では蛍光顕微鏡に適用することで最もよく活かされるため、レーザ走査型顕微鏡の用途は蛍光顕微鏡を中心に発展し、様々な蛍光色素と各種レーザの組合せが開発されています(図7-3)。

図7-3 共焦点レーザ走査型顕微鏡システム

また工業用のレーザ走査型顕微鏡(図7-4a)では、基本構成は同じですがXYスキャナにMEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 技術を応用した一体型構造によりコンパクト化を実現したものもあり(図7-4b)、高解像の三次元計測装置等の用途として利用が広がっています。このように優れた特性を持つ走査型レーザ顕微鏡は、新しい光学顕微鏡として急速に普及してきています。

図7-4 工業用共焦点レーザ走査型顕微鏡