顕微鏡の基礎

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6. 各種観察法の基礎

光は物理学的に波の性質を持っていますが、人の目や写真フィルム、電子撮像素子などが光を感じる場合、その振幅の大きさは明るさの差、波長の違いは色の差として識別されます。しかし、生物の組織切片や培養細胞のように、それを透過した光の吸収がほとんどないような物体では、無色透明な物体として識別が困難です(図6-1)。このような試料を明瞭に観察する方法として、その物体に特有に染まる色素を用いる染色法と、無色透明な物体を透過した光のずれ(位相)を光学的手段でコントラストをつける各種観察法が発達してきました。

図6-1 物体を通過した光の変化

この章では、その各種観察法の基本につき説明します(6.1〜6.7は生物顕微鏡に関するものです)。

 

6. 1 明視野観察法 bright field microscopy

明視野観察法は、照明された試料を直接対物レンズで拡大し、観察・表示・記録する光学顕微鏡の最も一般的な方法です。多くの試料は明視野観察法で直接見ることができます(図6-2a)し、透明で見にくいものはコンデンサの開口絞りを絞ることによってある程度コントラストが付きます。しかし前述したように、より微小な生物構造を観察するためには、試料をミクロトームにより薄片化し、固定するとともに染色しなければなりません。これらの手法は、19世紀後半から急速に技術が確立されてきました。現在でも、染色した試料を観察する明視野観察法は、光学顕微鏡の最も一般的な方法として、医学や生物学の研究・検査に幅広く使われてい ます(図6-2b, c)。

一方、染色法は組織を固定した後に色素を作用させるため、生体を死滅させるかその機能を著しく損ない、生きたままの状態で観察できないという欠点があります。このため20世紀に入ってから、光のもつ様々な現象(屈折、散乱、回折、干渉、偏光、蛍光など)を応用した各種観察法(6.2〜6.7参照)が発明され製品化されてきました。光学顕微鏡ほどこうした光の性質を幅広く応用した光学器械はないといっても過言ではないでしょう。

図6-2 明視野観察法による写真