顕微鏡の基礎

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6. 各種観察法の基礎

6. 7 蛍光観察法 fluorescence microscopy

物質に紫外線や可視光線などの励起光を照射して発生する蛍光を画像として観察・記録する顕微鏡です。蛍光の波長は、励起光の波長より長いという特性があります(ストークスStokesの法則)が、強度は励起光に比べ格段に弱いため、観察には工夫が必要です。1913年にレーマンH. Lehmannらにより発明されましたが、主として動植物の自家蛍光(標本自身が発生する蛍光)の観察に使われていました。その後、蛍光色素の発見により、試料を染色してその特異部分を光らせる、蛍光染色法が発達しました。さらに1950年にクーンズA.H. Coonsにより蛍光抗体法は発表されてから、蛍光顕微鏡は医学を中心に急速にその重要性を高めてきました。現在も新しい蛍光色素が次々と開発され、遺伝子研究や細胞機能の解明など、最先端分野をはじめとする様々な分野で広く使われています。

蛍光顕微鏡は試料を照射する励起光を観察光路から完全にカットするため、当初は暗視野コンデンサを使った透過方式でした。しかし、近年になり短波長を反射し長波長を透過するダイクロイックミラーDichroic mirrorの発明や自家蛍光の少ないガラス材料で構成された対物レンズなどの開発により、操作性の高い落射方式が主流となり現在に至っています。光源には一般に紫外・可視域に強い輝線を持つ超高圧水銀灯が使われます。次に図6-14に基づき、落射蛍光顕微鏡の構成を説明します。

図6-14 落射蛍光顕微鏡の構成図

 

図6-15 各励起法の分光特性

落射照明装置は、鏡基と鏡筒の間に配置されます。超高圧水銀灯から出た光は、励起波長を選択する励起フィルタExciting filterを通り、ダイクロイックミラーで反射され対物レンズにより試料を照射(励起)します。励起された試料から発した蛍光は、対物レンズを通りダイクロイックミラーを透過します。この時点で励起光の大部分はカットされていますが、このあとさらに吸収フィルタBarrier filterを通ることによって、蛍光のみが結像光線となり、観察・記録されます。励起光の波長は、試料や蛍光色素によって選択します。主な励起の種類としては、U (365nm), V (405nm), BV (436nm), B (490nm), G (546nm)などがあります(カッコ内は主励起波長)。励起フィルタ、ダイクロイックミラー、吸収フィルタの組合せはフィルタキューブとしてユニットになっており、切り替えが容易にできるようになっています。図6-15にU, V, B, G 各励起の励起フィルタ(EX)、ダイクロイックミラー(DM)、吸収フィルタ(BA)の特性を、図6-16にU, B, G各励起及びUBG三重励起による蛍光像の写真を示します。

落射蛍光用対物レンズとしては、明るい蛍光像を得るため開口数が大きく、近紫外域で高い分光透過率をもち、かつ自家蛍光のないレンズ材料で構成されていることが必要です。

図6-16 蛍光顕微鏡各励起法による写真