顕微鏡の基礎

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7. 新しい光学顕微鏡

7. 2 多光子励起顕微鏡 Multiphoton excitation fluorescence microscope

蛍光分子に励起光を照射するとき、2つの励起光子が同時に吸収される(二光子励起)と、2倍のエネルギーとなり1/2波長の励起と同様の現象が生じます。二光子以上の場合は多光子励起と呼びます。この過程は自然界では非常に稀にしか起こりませんが、光子密度を極端に高めることによりその確率を高めることができます。二光子励起顕微鏡では、高い光子密度と試料のダメージを避けるために、光源としてフェムト(10-15)秒超短パルスレーザが用いられます。レーザ光が対物レンズの焦点面に集光されると、その部分のみで二光子励起過程が引き起こされるため、自動的に共焦点効果を得ることができます。画像は通常のレーザ走査型顕微鏡と同様にXYスキャナで走査し構築されますが、共焦点ピンホールが不要のため蛍光のロスはありません(図7-5)。

図7-5 一光子励起(左)と二光子励起顕微鏡(右)の比較
図7-6 二光子励起顕微鏡

また励起波長は2倍でよいため、可視光・紫外光レーザより生体組織の透過性に優れる近赤外光レーザ(チタンサファイアレーザ)が用いられ、組織表面から数百μmの深部の顕微鏡像を少ないダメージで得ることができます。このため生きた動物の脳内で起こっている神経細胞活動や血流などの観察も可能となります。二光子励起顕微鏡(図7-6)は、多くの場合レーザ走査型共焦点顕微鏡として構成されますが、一光子に比べ波長域が広くなるため、対物レンズはそれに対応した高性能のものが必要です。