顕微鏡の基礎

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6. 各種観察法の基礎

6. 5 微分干渉観察法 differential interference contrast microscopy:DIC

微分干渉法は、無色透明な物体の位相情報を、偏光干渉により干渉色のコントラストを付けて可視化する方法で、1954年ノマルスキー(G. Nomarski)が開発した方式が現在主流となっています。図6-10に示した構成図に基づき、次にその原理を説明します。

図6-10 微分干渉顕微鏡の構成及び原理図

コンデンサ下のポラライザを通過した直線偏光(振動方向は図の右側に表示)は、第1のウォラストンプリズム(水晶などの結晶を特定の方向に切り出し微小なくさび角をつけたプリズム2枚を貼り合わせたもの)に入射し、互いに直交した振動方向をもつ2つの直線偏光に分離します。この2つの光が位相物体を透過し、波面の変形を受けたあと対物レンズを通過して再び第2のウォラストンプリズムで結合し、アナライザにより振動方向が合致して、2つの波面のずれに対応した干渉が起こります。このとき、位相物体を透過する2つの光線の分離幅(シア量)が対物レンズの分解能以下であれば、像は2重にならず位相のずれ(透過波面の微分係数)に対応した干渉色のコントラストが付きます。このため微分干渉の像には、レリーフのような立体感があります。

ノマルスキー式微分干渉顕微鏡では、ウォラストンプリズムを変形したノマルスキープリズムを使います。通常、第1のノマルスキープリズムは、対物レンズごとに用意されており、倍率転換のたびにプリズムも転換する必要がありますが、第2のノマルスキープリズムは共用の1個だけで、その横方向の移動により背景色のコントラストを変えることができます。グレーのコントラストが最も試料の検出感度が高いため一般的に使われますが、鋭敏色を使うと赤・青の色鮮やかなコントラストが得られます。

微分干渉法も偏光を使うため、コンデンサ、試料、対物レンズに光学ひずみが少ないことが必要で、プラスチック容器の試料には使用できません。一方、厚い試料でも問題なく観察でき、ハローもないため位相差法とは像の特性が相補の関係にありますので、目的に応じて使い分けるとよいでしょう。 図6-11aに珪藻の微分干渉写真、同bに位相差顕微鏡との比較写真を示します。

図6-11 微分干渉写真