顕微鏡の基礎

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6. 各種観察法の基礎

6. 4 偏光観察法 polarized light microscopy

横波(進行方向に対し垂直に振動する)である光の振動方向は、自然光ではランダムですが、この方向に偏りを持った光を偏光polarized lightといいます。この偏光は、結晶などの複屈折物質により変化することが知られています。偏光顕微鏡は、この変化を観察することにより複屈折物質の性質を検査する装置で、主に岩石・鉱物を対象に使われてきました。古くは鉱物顕微鏡あるいは岩石顕微鏡と呼ばれていたのはこのためです。最近では、高分子化学や液晶など工業分野でも広く使われるようになってきました。医学・生物学では、生体の複屈折量は極めて微小なため、骨組織や筋肉繊維の観察、アミロイドや痛風の検査などに利用されています。しかし最近では、偏光性能の向上によりDNA研究や細胞の機能解明などにも応用が広がってきています。

偏光顕微鏡を簡単に仕立てるには、明視野顕微鏡でコンデンサ側にポラライザpolarizer (偏光子)、 対物レンズ側にアナライザanalyzer(検光子)の二つの偏光板を取り付ければできます。ポラライザとアナライザの振動方向を直角に配置し(クロスニコルと呼びます)、暗くなった背景に複屈折物質が明るく、時には色鮮やかに観察できます。一方、専用の偏光顕微鏡ではこれに加えて、アナライザのほか検板やコンペンセータ(補償板)などを挿入する中間鏡筒、試料の方向を厳密に決まるための回転ステージ、クロス焦点板付きの接眼レンズなどが必要となります。またポラライザとアナライザの間にある対物レンズやコンデンサレンズなどは、光学ひずみを除去した偏光専用のものを使います。

図6-8 偏光顕微鏡の構成図

偏光顕微鏡の観察方法には大きく分けて二通りの方法があります。一つは照明の開口数を小さくし(偏光用コンデンサの先玉をはねのける)、4倍または10倍程度の低倍対物レンズで、標本の持つ複屈折性を観察する基本的な方法で、オルソスコープorthoscopeと呼びます(図6-8a)。物質の複屈折を定量的に測定するためには、検板(波長板、鋭敏色板)やコンペンセータ(補償板)を使います。もう一つの方法は、照明の開口数を大きくし(偏光用コンデンサの先玉を光路に入れる)、NAの大きな対物レンズの後側焦点付近にできた干渉縞(結晶標本の光学特性を表す)を観察するコノスコープconoscope(図6-8b)と呼ばれるものです。コノスコープ像を観察しやすくするためには、ベルトランレンズBertrand lensを観察光路に挿入します。図6-9aはオルソスコープ像(カンラン石・鋭敏色板使用)、同bは一軸性結晶(方解石)の、同cは二軸性結晶(トパーズ)のコノスコープ像です。

図6-9a カンラン石(オルソスコープ)・図6-9b 方解石(一軸結晶)(コノスコープ)・図6-9c トパーズ(二軸結晶)(コノスコープ)