顕微鏡の歴史

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2. 光学のはじまり

顕微鏡を含む光学機器の歴史のスタートは、まず人類が光学というものを理解し始めたことから始めなければなりません。光の現象を幾何学的にとらえ、その直進性や反射の法則を最初に論じたのは、古代ギリシアのエウクレイデス(ユークリッド Euclid:図1)で、紀元前300年頃でした。また光が水面などで曲げられる(屈折する)という現象も古代より知られていましたが、アレキサンドリアのプトレマイオス(トレーミー Ptolemy:図2)は、140年ころにその入射角と屈折角とが比例するという記述を残しました。この誤った考えは、正確な屈折の法則(スネルW. Snellの法則:1621年)が導かれるまで、約15世紀もの時間を要しました。

図1
図2

その後ギリシア科学が衰退し、中世になるとアラビア科学が発展しました。中でも中世最大の科学者とされるイブン・アル=ハイサム Ibn al Haytham(ラテン名:アルハーゼンAlhazen:図3)は、1000年頃に視覚の研究や様々な光学現象の測定・説明を行い、「光学の書」を著しました。このラテン語訳は12世紀末に西洋にも伝えられ、イギリスの科学者ロジャー・ベーコンR. Bacon (図4)はレンズの拡大作用をその主著「大著作 Opus Majus」の中で述べています(1260年頃)。ちなみに、レンズという言葉は、その形状がレンズ豆に似ているところから来ています。こうした中で、凸レンズが文字を拡大するのみならず、老眼にも有用なことが見出されるのに多くの年月は必要としませんでした。

図3
図4

ガラスの製造技術が発達しつつあったイタリアのベネチアで、最初の光学機器とも言うべき老眼鏡が誕生したのは、1280年代と言われています。しかし、当時はガラスで良質なレンズを作ることはまだ難しく、水晶や緑柱石など透明な鉱石を磨いて作っていたため大変高価なものになり、使うことができたのは一部の特権階級や聖書を研究する修道士だったようです。最初は片眼だけでしたが、14世紀中ごろには両眼のメガネを掛けた修道士の絵が残されています。一方、近視用の眼鏡(凹レンズ)が登場するのは、15世紀半ばころからで、1445年にグーテンベルクJ. Gutenberg が発明した活版印刷により聖書が普及したこともあって、徐々に需要が高まってきました。そしてベネチアガラスの品質が向上し、レンズが比較的安く大量に生産できるようになるにつれ、眼鏡はヨーロッパ中に広まっていき、16世紀にかけて各地に眼鏡職人が誕生するようになりました。こうして彼らの中から、望遠鏡や顕微鏡が発明されることになります。