顕微鏡の基礎

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6. 各種観察法の基礎

6. 3 位相差観察法 phase contrast microscopy

図6-5 位相差顕微鏡の構成図

微小な無色透明の試料(位相物体)を、明暗のコントラストに変換し、観察可能にした方法を位相差観察法といい、原理は1935年にゼルニケ(F. Zernike)により考案されました(1953年ノーベル物理学賞受賞)。この方法により、生体組織や細胞構造などを生きたまま細部まで観察できるようになり、生物学や医学分野を中心に急速に普及しました。

位相差顕微鏡は、図6-5に示すように、コンデンサの前側焦点位置にリング絞りを置き、それと共役な対物レンズの後側焦点位置にやはりリング状の位相膜を持つ位相板phase plateを置いた構成になっています。図6-6により簡単に原理を説明しますと、位相物体を透過した光Pは、物体の影響を全く受けない直接光Sに回折光Dが合成されたものと考えることができます。このとき位相のずれが十分に小さいものであれば、回折光Dは直接光Sに対して1/4波長だけ位相が遅れています。直接光Sは全て位相板を通過しますが、回折光Dは位相物体により回折しているので、位相板を通過するのはごく一部です。そこで、位相板を通過する光の位相を1/4波長だけ進めさせるように設定しておけば、直接光と回折光の位相は1/2波長ずれることになり、干渉により合成波の振幅I'は、直接光の振幅(背景の明るさ)よりも小さくなります。

図6-6 位相差コントラストの原理

すなわち、周りより屈折率の高い位相物体に暗いコントラストがついた像が得られます。このとき位相板に吸収膜を付け、直接光の強度を落としてやりますと、コントラストはさらに向上します(図6-6b)。これをポジティブ(ダーク)コントラストと呼んでいます。同様に、位相板を通過する光の位相を1/4波長だけ遅らせると、直接光と回折光の位相が合わさって、干渉により合成波の振幅I" は直接光の振幅より大きくなり、位相物体が周りより明るくなります(図6-6c)。これをネガティブ(ブライト)コントラストと呼んでいます。図6-7に両者の比較写真を示します。

このように位相差観察法は、わずかな位相差の物体に対し、解像をほとんど落とさず明瞭なコントラストの像を作ることができる優れた方法です。一方、位相差像には像の周囲にハローと呼ばれる明るい縁取りが現れたり、厚い試料に対しては正しい像が得られないという欠点もあります。

位相差顕微鏡を実際に使う上では、リング絞りと各対物レンズの位相板の心合わせ調整を確実に行うこと、コントラストをさらに高めるにはグリーンフィルタを使うことなどが注意点として挙げられます。

図6-7 位相差コントラスト