顕微鏡の基礎

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1. 顕微鏡光学の基礎

1. 3 機械筒長と同焦点距離

多くの顕微鏡では、倍率の変換がし易いように数種の倍率の対物レンズがレボルバに取り付けられています。この場合、対物レンズのレボルバ取り付け面(胴付)から接眼レンズの取り付け面(胴付)及び試料面までの距離は、対物レンズを転換しても常にピントが合うよう一定の値になっています。前者を機械筒長(Mechanical tube length)、後者を同焦点距離(Parfocalizing distance)と呼んでいます。 機械筒長は有限(160mmなど)のものと無限遠のものとに区分されます(図1-4)。機械筒長が無 限遠のものは、対物レンズから出た光線は平行(すなわち像の位置が無限遠)であり、結像レンズによって一次像を結びます。この平行光線部分にさまざまな光学素子(フィルタ、アナライザ、ミラーなど)を挿脱しても、像のずれや劣化は起こりません(図1-5)。

図1-4 機械筒長有限(左)と無限遠(右)

図1-5 機械

筒長無限遠補正系のメリット

金属顕微鏡では早くから採用されていましたが、生物顕微鏡でもさまざまな観察法の組合せによるシステムの拡張性が重要視されるようになるにつれ、高級顕微鏡では機械筒長無限遠のものが主流となってきています。なお機械筒長無限遠の対物レンズの倍率Mo∞は、対物レンズの焦点距離をfo、結像レンズの焦点距離をftとしたとき、 Mo∞ftfoで表されます。結像レンズの焦点距離はメーカにより異なっています(例えばオリンパス180mm、ニコン200mmなど)。同焦点距離は、国内の主要メーカでは45mm又は60mmを採用しており(ISO 9345-2, JIS B 7132)、工業用対物レンズでは95mmのものもあります。対物レンズの先端から試料面(カバーガラスがある場合はその上面)までの距離を作動距離(WD : Working Distance)といい、一般に倍率が高くなると作動距離は小さくなりますが、高倍でも特に作動距離を長くし作業し易くした対物レンズも市販されています。

対物レンズのレボルバ取り付けねじの種類を表1に示します。この中でRMS(Royal Microscopical Society:英国王立顕微鏡協会)ねじと呼ばれるものが古くから対物ねじの標準として用いられてきました。このため、ほかのメーカの対物レンズでもこの規格であればレボルバに取り付けることができますが、同焦点距離や結像レンズ、接眼レンズなどが異なり正しい倍率や性能がでないことがあるため注意が必要です。また最近は性能の向上や用途の広がりにともない、M25やM32など新たな規格のものが普及してきています。

表1-1 対物ねじの種類(ISO 8038, JIS B 7141より)
ねじの呼び 呼び径 ピッチ 備考
ウィットねじ RMS 20.32mm 0.706mm 一般用
W26 26mm 0.706mm 工業用、反射暗視野用
メートルねじ M25 25mm 0.75mm 一般用
M27 27mm 0.75mm 反射暗視野用
M32 32mm 0.75mm 反射暗視野用